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糸川先生のバイオリン。

By今井響

2018.04.05, 4:23 PM

「転機は、1945年8月15日に訪れた。

僕が産まれたのが1912年だから、33歳の夏である。」

 

敗戦をきっかけに人生が大きく動いたその人は、糸川英夫さん。

 

http://www.isas.jaxa.jp/j/special/2012/prof.itokawa/

 

 

麻布で生まれ、笄小学校の教室でオルガンを弾いていた少年は、やがて一生を飛行機に捧げようと東京帝国大学で航空学を学びます。

 

卒業後は日本軍の戦闘機やミサイル開発をし、有名な隼(ハヤブサ)の設計にも関わります。

そして運命の日。1945年の夏、帝大の研究室の中庭で玉音放送を聞き、「僕はもう飛行機がつくれなくなったのだ」とぼんやり思った通り、敗戦国の日本は航空宇宙に関する研究、製作、業務を一切禁じられました。

「ヒコーキ屋」になることしか考えてこなかった糸川さんは絶望し、自殺まで考えます。

 

そんな時、糸川さんの元に一人の青年が訪ねてきます。

青年は糸川さんにこう言いました。

 

「いいバイオリンがほしいんです」。

 

バイオリンを習っている青年は、熱意があっても貧乏で、いい音のでるバイオリンを買うことができない。あの隼戦闘機を設計した糸川先生の頭脳を駆使して設計すれば、安い材料費で昔の名器を超えるバイオリンがつくれるのではないか、と言うのです。

 

突飛なお願い。でもその青年のお願いによって自殺のことばかり考えていた糸川さんの研究者魂に火がつきました。200年も300年も前の職人さんがつくったものに、この20世紀半ばの現代科学がいまだに及ばないというのは、科学者として屈辱的だ、と。

 

「バイオリンを完成させてから死のう」。

 

それから45年。

 

全くの独学で、おそらくバイオリン製作史上もっとも「科学的」につくられたバイオリンは完成します。糸川さんは七十九歳になっていました。

 

 

糸川さんのバイオリンづくりの経緯、研究者ならではの製作上の驚くべき発想や試行錯誤は『八〇歳のアリア 四十五年かけてつくったバイオリン物語』(糸川英夫著/ネスコ発行・文藝春秋発売)に書かれています。

 

 

 

例えば、そのバイオリンづくりの方法も独創的でした。世の中のバイオリンの名曲の譜面を分析して、使われた音の長さと回数の統計をとって、バイオリンという楽器でもっとも多く使われる4つの音を明らかにしたり、200年前につくられた名器と同様の音色を出すために、真空状態に木を置いてさらに超音波と赤外線をあてる「木のエイジング」を試みたり。

 

糸川さんは語ります。「いい音に聴こえるかは人間の感情であり、名器の歴史やドラマ性も含めてどう感じるかということ。だからそれは測定して数字で表現することはできない。芸術とは、音楽とは、バイオリンとは神秘的で聖なるものだ」。

芸術の神秘に敬意を持ちながら、それでも自分らしい科学的なアプローチで45年かけて世界一のバイオリンづくりに挑む姿は、とてもチャーミングです。

 

なお、日本における飛行機とロケットの研究は1955年に解禁され、念願の「ヒコーキ屋」に戻った糸川さんはバイオリン製作をしながらロケット開発に邁進。日本初の宇宙を目指す「ペンシルロケット」を開発するなど、その多大な功績から「日本の宇宙開発の父」と呼ばれています。

 

最後に、もう一つ。

糸川さんは、ロケット開発の権威でありながら、なんと62歳でバレエ学校に入学。5年後には『ロミオとジュリエット』の伯爵役で舞台デビューもされています。

どこまでもチャーミングです。

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